食品や医薬品、電子部品などの製造現場では、品質管理を徹底していても異物混入を完全に防ぐことは困難です。異物の種類や発生原因を正確に特定するためには、適切な評価手法による異物解析が欠かせません。本記事では、異物解析の概要や流れ、原因究明に活用される代表的な分析手法について解説します。
異物解析とは?品質トラブルの原因究明に欠かせない評価技術
異物解析とは、製品や原材料に混入した異物の種類や成分、発生原因を特定するための分析手法です。異物混入は食品や医薬品だけではなく、樹脂製品、電子部品、半導体、金属製品など幅広い業界で発生します。異物が混入すると製品性能の低下や不良品の発生につながるだけではなく、企業の信頼性にも大きな影響を与えます。異物には、金属片やガラス片などの無機物、樹脂やゴム、繊維などの有機物、さらに複数の物質が混在した混合物があります。
また、製品表面に付着した異物、内部に入り込んだ異物、製品中に埋没した異物など、発生形態もさまざまです。異物解析では、まず発生状況や製造工程の情報を収集し、異物の大きさや色、形状などを観察します。
その後、顕微鏡観察や化学分析を実施し、異物の成分や構造を調査します。最終的には分析結果をもとに混入経路や発生原因を特定し、再発防止策の立案につなげます。近年は製品の高機能化や小型化が進み、異物も微細化する傾向があります。
そのため、従来よりも高感度かつ高精度な分析技術が求められるようになっています。とくに電子・半導体分野では数十マイクロメートル以下の微小異物が歩留まりに大きな影響を与えるため、精密な異物解析が重要です。
異物解析で活用される代表的な評価手法
異物解析では異物の種類や状態に応じて複数の分析手法を使い分けます。単一の装置だけで異物を特定できるとは限らず、複数の分析結果を組み合わせることが一般的です。FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)
代表的な手法のひとつがFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)です。FT-IRは物質に赤外線を照射し、その吸収パターンから分子構造を解析する手法です。FT-IRでは測定したスペクトルを既知物質のデータベース(ライブラリ)と照合して物質を同定します。樹脂やゴム、塗料、接着剤などの有機物分析に広く利用されています。短時間で測定できるうえ、前処理が比較的容易なため、異物解析の現場でもっとも活用されている手法のひとつです。
とくにプラスチック異物の解析ではFT-IRが有効です。しかし、熱や紫外線によって劣化した樹脂は、酸化反応により赤外スペクトルが変化します。
たとえばポリエチレンが熱劣化すると、カルボニル基(C=O)やエステル基・アルコール基などの酸化生成物に由来する吸収ピークが現れます。
そのため、未劣化樹脂のみを収録した一般的なライブラリでは正確な同定が難しくなる場合があります。
このようなケースでは、劣化樹脂のスペクトルを収録した専用ライブラリや過去の測定データを活用することで、劣化樹脂の同定精度を向上できます。さらに熱履歴の推定も可能となるため、異物発生の原因究明に役立ちます。
ラマン分光法
ラマン分光法も有機物解析に有効な手法です。レーザー光を照射した際に発生するラマン散乱光を解析し、分子構造や結晶構造を調べます。FT-IRでは測定しにくい微小異物や顔料、カーボン材料の分析にも活用されています。XRF(蛍光X線分析)
無機系異物の分析ではXRF(蛍光X線分析)が利用されます。X線照射によって発生する蛍光X線を測定することで、試料中に含まれる元素を非破壊で分析できます。金属粉や鉱物、セラミックスなどの異物解析に適しています。SEM(走査型電子顕微鏡)
異物の形状や表面状態を詳細に観察する際は、SEM(走査型電子顕微鏡)が用いられます。SEMでは数万倍以上の高倍率観察が可能であり、微細な異物の形状や表面構造を把握できます。EDS(エネルギー分散型X線分析装置)を組み合わせることで元素分析も実施できるため、無機異物の特定能力が向上します。
X線CT
内部に埋没した異物の検出にはX線CTが活用されます。試料を破壊せずに内部構造を三次元的に観察できるため、電子部品や樹脂成形品の欠陥解析にも利用されています。熱分析を活用した異物解析と劣化原因の評価
異物解析では成分分析だけではなく、異物がどのような環境で変化したのかを調べることも重要です。その際に活用されるのが熱分析です。熱分析とは、試料を加熱または冷却しながら重量や熱量の変化を測定する評価手法です。異物の熱的特性や劣化状態を把握できるため、原因究明に役立ちます。
代表的な装置としてTG(熱重量測定)があります。TGでは加熱中の重量変化を測定し、水分蒸発や熱分解、酸化反応などを評価します。
たとえば樹脂異物であれば、分解温度や残渣量から材料の種類を推定できます。また、異物と正常品を比較することで、熱劣化の進行状況も確認できます。
DSC(示差走査熱量測定)は融解や結晶化、ガラス転移などの熱挙動を測定する装置です。異物が特定の樹脂由来であるかどうかを判断したり、材料の劣化による結晶構造の変化を調べたりする際に利用されます。
さらに、TGとDSCを同時測定できるSTA(熱重量・示差走査熱量同時測定装置)も活用されています。重量変化と熱変化を同時に取得できるため、異物の分解挙動や反応特性を効率的に評価できます。
たとえば、生産設備の樹脂部品が高温環境で劣化し、その破片が製品へ混入した場合を考えてみましょう。FT-IRによって樹脂種を特定し、TGやDSCによって熱劣化の進行状況を評価することで、設備部品由来の異物である可能性を高精度で判断できます。
このように熱分析は、異物そのものの特定だけではなく、異物が発生した背景や劣化プロセスの解明にも役立つ重要な評価技術です。近年ではFT-IRやSEMなどの表面分析技術と熱分析を組み合わせることで、より高度な異物解析が実現されています。